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最高裁判所第一小法廷 昭和44年(オ)1047号 判決

上告人

大島利慬

代理人

鈴木義広

被上告人

野々貞市

外二名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人鈴木義広の上告理由第一点について。

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決の挙示する証拠によつて首肯するに足り、その判断の過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審が適法にした証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用できない。

同第二点について。

貸金債権の担保のため不動産に抵当権を設定するとともに、右不動産につき停止条件付代物弁済契約または代物弁済予約がなされている場合において、契約時におけるその不動産の価額と弁済期までの元利金額とが合理的均衝を失するようなときは、特段の事情のないかぎり、右契約は、債務者が弁済期に債務の弁済をしないとき、債権者において、目的不動産を換価処分してこれによつて得た金員から債権の優先弁済を受け、またはこれを評価して物件の所有権を取得し、自己の債権額との差額はこれを債務者に返還すべきであり、その実質は担保権と同視すべきものと解すべきである(最高裁判所昭和四二年一一月一六日第一小法廷判決、民集二一巻九号二四三〇頁参照)。本件において、原審の確定したところによれば、訴外池田宇善は自己の経営していたメトロ映画株式会社が訴外平原清人から金五〇〇万円を借り受けるにさいし、平原との間に本件土地を含む宅地二〇〇坪について根抵当権を設定し、同時に右金員が期間内に弁済されないときは右宅地を代物弁済として平原に移転する旨の契約を締結し、昭和三二年一二月一三日その旨の根抵当権設定登記および所有権移転請求権保全の仮登記を経由した、というのであつて、右代物弁済予約の趣旨は、他に特段の事情のないかぎり、前記の内容の担保契約と推認すべきものであるが、さらに原審の確定したところによれば、右二〇〇坪の宅地については、右契約締結の当時すでに、訴外高峰森林株式会社のために元本極度額四〇〇万円の根抵当権設定登記および売買予約による所有権移転請求権保全の仮登記が経由されていたほか、本件土地は上告人らがこれを占有していて、平原が右二〇〇坪の土地を取得しても、これを完全に利用しまたは処分するためには相当の時間と費用を要する事情がある、というのであり、このような事実関係のもとにおいては、上告人が原審において主張するその他の事情を斟酌してもいまだ右契約をもつて暴利行為として公序良俗に反する無効の契約と解するに足りないから、これと同旨に出た原審の判断は正当である。

したがつて、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立つて原判決を非難することに帰するものであつて、採用することはできない。

同第三点について。

記録によれば、上告人の訴状記載の請求原因第三項(二)には所論のような趣旨の主張が記載され、右訴状は第一審口頭弁論期日に陳述されたが、原審第一回口頭弁論期日において第一審における口頭弁論の結果を陵述するに当たつては、当事者双方において、第一審判決の事実摘示のとおりこれを陳述したことが明らかであり、右同旨の主張があらためて原審においてなされた形跡は認められない。

してみれば、所論主張は原審において訴訟資料とならなかつたものというべきであるから、所論は、上告理由としてその前提を欠くものであつて、採用することができない。

同第四点について。

所論の点に関し、被上告人野原タツを代理して本件土地を含む二〇〇坪の宅地を目的とする代物弁済予約上の地位の譲渡を受けた訴外野原桂造には背信的悪意があつたものとはいえず、また同被上告人についても背信的悪意があつたとはいえず、また同被上告人についても背信的悪意があつたとは認められない旨の原審の事実認定は原判決挙示の証拠その他原審の取調べにかかる証拠関係に照らして是認するに足り、所論丙第一六号証の一の記載を斟酌しても原審の事実認定に違法があるとは認めがたい。してみれば、上告人はその所有権の取得をもつて同被上告人に対抗できず、したがつて、その余の被上告人らにも対抗できない旨の原審の判断は正当である。原判決にはなんら所論の違法はなく、論旨は採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(岩田誠 入江俊郎 長部謹吾 松田二郎 大隅健一郎)

上告代理人の上告理由

第一点 〈省略〉

第二点 原判決は上告人の公序良俗違反の主張につき代物弁済予約の法の解釈を誤り、かつ、審理不尽、理由不備又は理由そごの違背がある。

上告人は原審において予備的主張の一として訴外池田(第一審昭和四四年(ワ)第四六三四号事件被告)と訴外平原間の代物弁済予約は(イ)その予約のなされた当時既に六年前に宅地二〇〇坪のうち、上告人ら所有部分は店舗又は住宅が建設され十余世帯の者がそれぞれ営業又は居住に使用し、代物弁済予約に係わる映画館の敷地一二八坪四合六勺とは通路及び塀をもつて明確に区別され、何人が見るも別個の土地であることが明白であつたこと、(ロ)その予約のなされた当時は代物弁済予約に係わる池田の主宰していた右訴外会社及び池田は金策に窮していたこと、(ハ)その予約のなされた当時池田は病気就床中であり右訴外会社のため訴外安藤、沖山(両名とも前記のとおり右訴外会社の従業員)に実印を託し、金策を依頼していたこと、(ニ)その予約のなされた債権者訴外平原は安藤の伯父に当つていること、(ホ)その予約のなされた当時その予約に係わる宅地と右映画館の建物とは時価数千万円であつたのにその予約に係わる根抵当権の極度額は五〇〇万円であり、しかも、事実右訴外会社に貸渡された金額は二五五万円であること、(ヘ)その貸渡前既に一年後の支払期日の額面金五〇〇万円の約束手形が授受されていたこと、(ト)その予約は本件土地及び地上建物の利害関係者十数名に対しては何人にも知らされていないこと、(チ)その予約に係わる債権、仮登記及び約束手形がなされた後に知り合いの者の間において次々と譲渡された不自然の事後の措置等を綜合考察すれば右代物弁済の予約は右池田及び上告人らの無知、無思慮、不用意並に池田の困窮に乗じ右平原らが暴利獲得のためなしたものと認むべく同契約は公序良俗に反し無効である。したがつて、被上告人野原、同理崎、同野々の本件土地の所有権取得登記は実質上の所有権利の伴わない無効のものであると主張した。然るに原判決事実欄に右主張の一部を簡単に摘示したのみであり、しかも、これにつき公務員が真正に作成したものと認められる甲第一一号証の一および前記丁第七号証の一ないし三を総合すれば右二〇〇坪の土地については、登記簿上、右代物弁済契約当時すでに高峰森林株式会社のため元本極度額四〇〇万円の根抵当権設定登記が経由されていることが認められ、なお、本件土地は上告人らが占有していたのであるから、仮りに右二〇〇坪の土地が当時時価数千万円であつたとしても、平原が右二〇〇坪の土地を取得した場合これを完全に利用しまたは処分するためには相当の時間と費用を要するものと考えられるから、右代物弁済の合意をもつて暴利行為として無効なものということができない。また、本物件価格が債権額五〇〇万円を上廻つていたとしても、借金契約と同時にされる代物弁済の予約は譲渡担保と同じように、債権担保の目的を有するものであつて、特約のないかぎり、債権者は、担保物件を処分または評価して、被担保債権額との差額があつたときは、これを債務者に返還すべきものであり、債権者がこれを取得しうるものでははないから、いづれにしても本件代物弁済の予約をもつて暴利行為とはいえないと判示している。しかし、代物弁済の予約は民法第四八二条の規定により、特約のない限り、債務の弁済に代へて他の給付をなすことを予約するものであるから債権者がその代物の物件を処分または評価して、本来の債務額との差額があつたときはこれを債務者に返還すべきものと解すべき理由はなく、原審の右判示は明らかに代物弁済予約の法の解釈を誤つている。原審がこの誤りを前提として上告人の暴利行為の主張を判断することは暴利行為が公序良俗に反するや否やの価値判断をなす上においても疑を抱かざるを得ない。更に、右原審における上告人主張の公序良俗違反の主張は単なる債務額と代物の価額との均衝のみが問題でなく、右挙示のごとく、その他の事情を綜合してこれを判断すべきものであるのみならず、原審の判決は右のごとく右二〇〇坪の土地が当時時価数千万円であつたとしても平原が右二〇〇坪の土地を取得した場合にこれを完全に利用しまたは処分するためには相当の時間と費用を要するものと考えられるから、右代物弁済の合意をもつて暴利行為として無効なものということができないと判示しているが、暴利行為か否かについての判断についても右判示のごとく相当の時間と費用を要するものと考えられるという漠然たる理由をもつて、暴利行為を否認することは条理上許されず、苟くも代物を数千万円と評価し得る場合には債務額とその他の理由による債権者の蒙る不利益とを数字的に算定し、その両者の均衝をもつて、暴利か否かを認定すべきである。いづれにせよ、原審は上告人主張の平原の公序良俗違反の主張につき前記代物弁済予約の法の解釈を誤つた外、審理不尽、理由不備又は理由そごの違背を犯したものというべく、この点において原判決は破棄を免れない。〈以下省略〉

〈参考・原審判決〉

(東京高裁判昭四二年(ネ)第二〇六〇号、家屋収去土地明渡請求控訴事件、同四四年七月一一日民事第一七部判決・棄却、原審東京地裁)

〔主文〕

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

〔事実〕

一、控訴人は、「原判決を取り消す、原審第一五四二号事件について、被控訴人・野々貞市の控訴人に対する請求を棄却する。原審第四六三四号事件につき、控訴人に対し、東京都新宿区神楽坂二丁目一〇番の三二・宅地111.86平方米(33坪8合4勺)について、被控訴人・野原タツは東京法務局新宿出張所昭和三八年二月二五日受付第三八四四号による所有権移転登記の、被控訴人・理崎一定は右出張所昭和三八年二月二五日受付第三八五三号による所有権移転登記の、被控訴人・野々貞市は右出張所昭和三八年三月六日受付第四八五一号による所有権移転請求権保全の仮登記、同日受付第四八五〇号による抵当権設定登記および昭和三八年五月七日受付第一〇三九二号による所有権移転登記の、各抹消登記手続をせよ」との判決を求め、被控訴人らは控訴棄却の判決を求めた。

二、被控訴人・野々貞市は請求原因として、次のとおり述べた。

(一) 東京都新宿区神楽坂二丁目一〇番の三二、宅地111.86方米(以下本件土地という。)を含むもと東京都新宿区神楽坂町二丁目一〇番の一宅地二〇〇坪は、池田宇善の所有であつたところ、平原清人は、昭和三二年一二月一二日メトロ映画株式会社(以下メトロ映画という。)に対し、五〇〇万円を弁済期昭和三三年一二月一二日の約で貸与し、右貸金債権を担保するため、池田との間に右土地に根抵当権の設定をうけるとともに、右貸金債務が期限に弁済されないときは、その弁済に代えて右土地の所有権を平原に移転する旨の停止条件代物弁済契約を締結し、昭和三二年一二月一三日、所有権移転請求保全の仮登記を経由した。平原は、昭和三三年一〇月三一日右貸金債権ならびに右抵当権および停止条件付代物弁済契約にもとづく所有権移転請求権を安藤一郎に譲渡し、安藤は同年一一月八日これを河崎宏和に、河崎は同月二一日これを被控訴人・野原タツにそれぞれ譲渡し、その旨の各付記登記を経由した。平原、安藤および河崎は、昭和三四年四月二五日頃に池田に対しそれぞれ右譲渡の通知をした。メトロ映画は、右借金を期限に支払わなかつたので、右被控訴人は池田に対し昭和二四年二月一日到達の書面で右土地を代物弁済として取得する旨の意思表示をし、もつてその所有権を取得した。右土地は、昭和三三年一二月一七日五筆に分筆されていた(そのうちの一筆が本件土地である。)が同被控訴人は、東京地方裁判所昭和三四年(ワ)第一九〇三号事件において、池田に対し、前記仮登記にもとづく本登記手続を求めて勝訴判決を得、同判決にもとづき昭和三八年二月二五日右五筆の土地に本登記を了した。

(二) 被控訴人・野原タツは、被控訴人・理崎一定から金六五〇万円を借りうけていたところ、昭和三八年二月二五日右五筆の土地を弁済に代えて被控訴人・理崎一定に譲渡し、即日その旨の所有権移転登記を経由した。

(三) 被控訴人・野々貞市は、被控訴人理崎一定に対し金七〇〇万円を貸与していたところ、昭和三八年三月五日両名の間で、被控訴人・理崎一定は被控訴人野々貞市に対する右債務を同年四月三〇日に支払う、右期限に支払わないときはその支払に代えて右五筆の土地を被控訴人野々貞市に譲渡する旨の契約が成立し、同年三月六日その旨の所有権移転請求権保全の仮登記を経由した。しかるに、被控訴人理崎一定は右期限内に弁済しなかつたので、被控訴人・野々貞市は右五筆の土地の所有権を取得し、同年五月七日右仮登記にもとづく本登記を経由した。

(四) 被控訴人・野々貞市が右本登記を経由する以前から、控訴人は本件土地上に木造瓦茸二階建店舗兼居宅・建坪一階72.78平方米(22坪2勺)二階六三〇七平方米(一九坪八勺を所有して、本件土地を占有しており、一か月金九〇、二四〇円の損害を与えている。

(五) よつて、被控訴人・野々貞市は控訴人に対して、右建物を収去して本件土地を明け渡すべきこと、および被控訴人・野々貞市が本件土地について本登記を経由した日である昭和三八年五月七日から右明渡まで一か月金九〇、二四〇円の損害金の支払を訴求する。

三、控訴人は、被控訴人・野々貞市の右請求原因事実に対する答弁ならびに抗弁、および被控訴人らに対する請求原因事実として、次のとおり述べた。

(一) 被控訴人野々貞市主張の前記二〇〇坪の土地は池田宇善の所有であつたところ、控訴人は、昭和二六年一二月二七日、そのうちの一部である本件土地を同人から買いうけ(ただし、未登記)、所有権を取得した。しかるに、本件土地については、被控訴人・野々貞市主張の各登記が経由されているので、本件土地の所有権にもとづき、被控訴人らに対しこれが抹消を請求する。

(二) メトロ映画が平原から、被控訴人・野々貞市主張の約で金五〇〇万円を借りうけ、池田と平原との間で停止条件付代物弁済契約が成立したことは認めるが、その代物弁済の目的となつたのは、本件土地等を除く映画館の敷地一二八坪四合六勺に限られていた。たまたま本件土地が分筆前で二〇〇坪が一筆となつていたため右二〇〇坪全体について平原への仮登記が経由されたものである。

(三) かりに、本件土地が右代物弁済の目的に含まれていたとしても、右契約当時、メトロ映画および池田は金策に窮しており、しかも池田は病気就床中で、同人が実印を託して金策を依頼した安藤一郎は平原の甥にあたること、前記二〇〇坪の土地の当時の価格は数千万円であるのに、代物弁済された債権はわずか五〇〇万円にすぎないこと、代物弁済契約締結の事実は控訴人ら右土地の利害関係人に知らされなかつたこと等を考え合わせると、池田と平原との間の右代物弁済契約は、池田の無知・無思慮・困窮等に乗じ、平原の暴利取得のためになされたものというべく、公序良俗に反し、無効である。したがつて、被控訴人らはいずれも所有権を取得するに由ない。

(四) かりにそうでないとしても、平原は、控訴人その他の者で右土地の一部を買いうけ、これを使用していることを知りながら敢えて前記代物弁済契約を締結したものである。そして、安藤、河崎は単に名目上の存在で、被控訴人・野原タツは事実上平原から右代物弁済契約上の権利を譲りうけたものというべきところ、右譲受に関与した同被控訴人の夫桂造は、前記池田と平原との間の契約に関与した安藤一郎および沖山貞雄とかねてから知り合いであり、また被控訴人・野々貞市と桂造および被控訴人・理崎一定はたがいに眤懇の間柄で、被控訴人・野原タツ、同理崎一定および同野々貞市は、本件土地についての控訴人らの権利および使用の事情を知悉しながら順次右土地についての各契約を締結したものであつて、いずれもいわゆる背信的悪意者というべく、控訴人の登記の欠缺を主張することはできない。

(五) 控訴人が本件土地上に建物を所有して本件土地を占有していることは認める。平原、安藤、被控訴人・野原タツ、同理崎一定、同野々貞市と順次された本件土地についての合意は知らない。

四、被控訴人・野々貞市、同理崎一定、同野原タツは、控訴人の請求原因事実に対して、次のとおり答え、なお被控訴人野々主張の前記二の(一)ないし(三)のとおり述べた。

(一) 本件土地について控訴人主張の登記が経由されていることは認めるが、控訴人が本件土地を池田宇善から買いうけた事実は否認する。

(二) 池田が平原に対して代物弁済に供した土地は、二〇〇坪全部であつて、本件土地を除外した事実はない。

(三) 控訴人主張の(三)、(四)の事実は否認する。

〔理由〕

一東京都新宿区神楽坂町二丁目一〇番の一宅地二〇〇坪が池田宇善の所有であつたこと、右土地が昭和三三年一二月一七日五筆に分筆され、本件土地はそのうちの一筆であること、右五筆の土地について被控訴人野々貞市主張の各登記が経由されていること、控訴人が、同被控訴人の本件土地に対する所有権移転登記経由の日以前から右土地上に同被控訴人主張の建物を所有し右土地を占有していること、以上の事実は本件当事者間に争いがない。

二〈証拠〉を総合すれば、控訴人は、昭和二六年一二月二七日池田宇善から本件土地を代金一八八、七九五円で買いうけたことを認めることができる。

三平原清人が、昭和三二年一二月一二日メトロ映画に対し金五〇〇万円を弁済期昭和三三年一二月一二日の約で貸し渡したことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉を総合すれば、池田宇善は、自己が経営していたメトロ映画が平原清人から右金五〇〇万円を借りうけるにさいし、平原との間に、本件土地を含む右宅地二〇〇坪について、根抵当権を設定し、同時に右金員が期間内に弁済されないときは右宅地二〇〇坪を代物弁済として平原に移転する旨の契約を締結し、昭和三二年一二月一三日その旨根抵当権設定登記および所有権移転請求権保全の仮登記を経由したことが認められる。これに反する証人宮下秀利の供述は措信できず、他に右認定を覆えし、右代物弁済の対象から本件土地が除かれていたとの控訴人主張事実を認むべき証拠はない。

四控訴人は、右代物弁済の合意は暴利行為で無効であると主張するので検討する。

〈証拠〉 を総合すれば、右二〇〇坪の土地については、登記簿上、右代物弁済契約締結当時すでに高峰森林株式会社のため元本極度額四〇〇万円の根抵当権設定登記および売買予約による所有権移転請求権保全の仮登記が経由されていることが認められ、なお本件土地は訴控人らが占有していたのであるから、かりに右二〇〇坪の土地が当時時価数千万円であつたとしても、平原が右二〇〇坪の土地を取得した場合これを完全に利用しまたは処分するためには相当の時間と費用を要するものと考えられるから、右代物弁済の合意をもつて暴利行為として無効なものということができない。また、本物件価格が債権額五〇〇万円を上廻つていたとしても、借金契約と同時にされる代物弁済の予約は譲渡担保と同じように、債権担保の目的を有するものであつて、特約のないかぎり、債権者は、担保物件を処分または評価して、被担保債権額との差額があつたときは、これを債務者に返還すべきものであり、債権者がこれを取得しうるものではないから、いずれにしても本件代物弁済の予約をもつて暴利行為とはいえない。

五被控訴人野原タツ、同理崎一定、同野々貞市が順次本件五筆の土地の所有権を取得し、現に被控訴人・野々貞市が本件土地の所有者であることは、原判決に認定されているとおりであり、その理由は、原判決理由三の(四)(五)に記載されているとおりである。

六控訴人は、被控訴人らはいわゆる背信的悪意者であるから、控訴人の本件土地所有権取得について登記がなく、被控訴人らの所有権取得について登記が経由されていても、控訴人は被控訴人らに対して自己の所有権取得を主張することができると主張するので検討する。証人野原桂造の供述によると、同人は、被控訴人野原タツの夫であつて、同被控訴人を代理して本件土地の取引にあたつたものであるが、同人は、代物弁済の目的となつた二〇〇坪の土地が映画館の敷地以外の土地をも含むものとは考えていたが、本件土地が含まれることについてははつきり知らなかつたこと、本件土地を控訴人が買いうけていたことを関知していなかつたことが認められるので、右野原桂造に背信的悪意があつたとはいえず、被控訴人野原タツ本人についても背信的悪意があつたと認めるに足りる証拠はない。そうすれば、控訴人は、その所有権取得を被控訴人野原タツに対抗することはできず、したがつて、その余の被控訴人らにも対抗できないから、控訴人の請求は失当として棄却を免れない。

七本件土地の所有者は、前認定のとおり、被控訴人野々貞市であるから、所有権にもとづく同被控訴人の控訴人に対する建物収去明渡の請求は理由があり、本件土地の相当賃料は、原判決理由七に認定するとおりと認められるから、右の限度で同被控訴人の損害金の請求を認容した原判決は相当である。

八よつて、民訴法三八四条により本件控訴を棄却し、同法八九条を適用して、主文のとおり判決する。(谷口茂栄 瀬戸正二 土肥原光圀)

谷口茂栄

瀬戸正二

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